クラウドに肩を叩かれ、スコールはレノの上から離れた。急に手を放され頭を打ち付けたレノをルードが助け起こす。クラウドはスコールが地面に突き刺した剣を抜き、日に透かした。刃が少し欠けている。
「これは?」
「…あいつ等の一人が持っていた」
クラウドは辺りを見回した。
あちこちに男たちが倒れ伏している。特に大きな外傷もなく……「眠っている」ようだ。いびきをかいている者もいる。
だらしなく寝転んでいる男たちを眺め、そうかとクラウドは頷いた。何故だかは分からないが、この男たちと戦闘になったらしい。
スコールなら余裕であしらえると思うのだが、それにしてはスコールの身体が埃まみれになっている事に気付き、クラウドは頬の汚れを指で拭ってやった。自分が汚れている事に気付いたスコールが髪の毛の埃を落とす。
そこでようやくレノとルードを視界に入れた。
「なんであんた等がここにいるんだ?」
やれやれとレノはパンパンと膝を払った。
「用事があって目的の場所へ向かっていたら、喧嘩してるという話があったから野次馬をしに来たんだゾ、と」
そうしてスコールを見つけたという訳か。
「で、一人闘っているスコールを温かい目で見守っていた、と」
「人聞きが悪いゾ、と。俺たちが来た時はそいつが男たちを眠らせていたんだゾ、と」
「魔法を使っていた」
クラウドはスコールを見遣った。スコールは小さく肩を竦める。
眠らせた時に魔女の力を使ったのだろう。それをレノ達に目撃され、追求されたという訳か。
「マテリアを持たずに魔法を使っていたゾ、と」
「マテリアを持っていない?」
「と見えたから確かめようとしたんだゾ、と。」
ふうむ、とクラウドは顎に手を遣った。何か言うべきかと迷うスコールを眼で制し、おもむろに肩を竦める。
「嘘だな」
「嘘じゃないゾ、と。風を起こした時何処も光らなかったゾ、と」
「マテリア無しに魔法を使える『人間』はいない」
「確かにそうだゾ、と。だがこいつの身体の何処も光らなかった。マテリアを持っていないんだゾ、と」
マテリアを使用せずに魔法を使う人間はいない。いるのならそれは―――人間以外のモノ、モンスターだ。
レノの主張に、クラウドは首を振った。
「スコール、ナイフを出してくれ」
「?」
「この間渡していたやつだ」
どういう事だろうと思ったが、スコールは言われるがまま懐からナイフを取り出す。
クラウドから護身用にと渡された長さ20センチほどのナイフは、刃も柄もシンプルな作りになっている。クラウドは柄をひっくり返してレノ達の方に向けた。
柄の先端に淡く光る緑色の宝石のようなものがついている。軽く魔力を込めると、それがぽぅっと淡く光った。
「それは………」
「マテリアだ。他のナイフにも埋め込まれている」
「マジかよ……―――」
レノが確かめようと手を伸ばしたが、クラウドは再びスコールに手渡した。「仕舞っておけ」と言われるがまま懐に入れるスコールに、渡してはくれないかとレノは肩を落とした。
「マテリアの反応は無かったゾ、と」
「懐に仕舞っていたんだろう。腕やアクセサリーしか確かめていないんじゃないか」
それを確かめるために、スコールに戦いを仕掛けた。どうにかスコールに圧し掛かり、袖をまくりあげて確認しただけだった。胸元などは見ていなかったが、マテリアが反応したというなら何か兆候がありそうだが―――
「つまり、スコールが埃まみれなのはあんたたちのせいなんだな」
目を細めるクラウドに、レノとルードは思わず構えた。
「…違和感を覚えたから、それに従ったまでだゾ、と。傷はつけていないゾ、と」
「調べるなら話を聞くだけでもいいだろう」
戦いを仕掛ける必要があったのか?
「マテリアを―――」
実際マテリアを使わずに魔法を使ったのか、確かな証拠を握ろうをとしたのだが。
「スコールはテリアを持っていた。マテリアを使って魔法を唱えた。―――そうだろう」
僅かに口元に笑みを浮かべたクラウドの目は剣呑に光り、有無を言わさない迫力がある。
背中に冷や汗が流れた。冗談めかした言い方だったが、レノ達に頷けと言っているのだ。
「―――クラウド、彼らに殺意は無かった」
「スコール」
スコールはもういいからと首を振った。彼らの攻撃はスコールの力を見ようと仕掛けられたもので、だからこそスコールも本気で戦う気にはなれなかったのだ。
「あんた達へはマテリアを使って風を起こした。あいつ等が急に眠りこけたのが何故かは分からない。……………それでいいだろうか」
「―――取りあえず、そういうことにしとくゾ、と」
スリプルを使った事は認めなかったが、風については認めたスコールに、追求はここまでにしておくかとレノは受け入れた。ここで何が何でも否定し、クラウドを敵に回すようなことはしたくない。
ようやくクラウドから剣呑な光が消え、レノとルードの他、スコールもホッとため息をついた。こんな街中でクラウドとレノ達がやり合えば……クラウドが勝つだろうがその被害も大きいだろう。クラウドの力はスコールも知っている。ただでさえこんな大立ち回りをしているのだ。明日から住人の視線が痛い。
「クラウド。スコールは?」
4人の緊張感を解いたのはティファだった。
こちらに駆けて来たティファは、スコールの姿を確認してホッと笑った。レノとルードの姿を見て驚く。
「何かあったの?」
「まぁ色々あったみたいだ………店は?」
「危ないからって今日は帰ってもらったわ。何かあったらマズイし」
言いながら転がっている男たちを見て、ティファも何があったかうっすらと察したようだ。
「とにかく、まとめておくか」
そのまま転がしておくわけにもいかず、皆で男たちの後ろ手を縛り、街灯に括りつけておく。
ティファは一人一人眠っている男たちを確認していたが、とある男の顔を見て「あら?」と声を上げた。
「どうした?」
「この人、前に来た事があるわ」
「は?」
「私しかいない時だったけど、2~3日前にやってきたの。店の中をじろじろ見てる割には何も注文しないから印象に残ってたの」
後で聞きだしたが、クラウドの噂を聞いてスコールへの報復の助っ人として依頼をしようとしていたらしい。クラウドとスコールが知り合いだと知らなかったというし、スコールがセブンスヘブンで働いていた事も気づいていなかった。なんとも間抜けな話だ。
「でも、貴方達がこんなところを歩いているのって珍しくない?」
ティファの疑問にレノはぽんと手を叩いた。
「そうだったんだゾ、と。実は依頼があって店に行く途中だったんだゾ、と」
…何だかクラウドが饒舌です。
クラウドもスコールも脳内はおしゃべりだけど、言葉にするには一拍いるような感じ。(熱くなったら違うけど)でも、2人になるとクラウドがリードするイメージ。
2人が思ってる事全部言ったらすごそう……。
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